Mishima: A Life in Four Chapters(ポール・シュレーダー監督:1985年)では日本映画とは違った角度から、名優緒方拳さんを見ることができる。この映画は三島家のご遺族との関係か何かで(とアメリカでは書かれている)日本未公開に終わった。おそらく国内ではビデオもDVDも発売されていないと思う。
ロイ・シェイダーのナレーションとフィリップ・グラスの曲が流れる中、「金閣寺」「鏡子の家」「奔馬」の三つの作品にドキュメンタリー風な三島由紀夫自身の話を織り交ぜていく。三作品では坂東八十助、佐藤浩市、沢田研二、永島敏行が出演。素晴らしい脚本は、俳優の真の実力をこうも引き出すものかと驚かされる。そして、緒方拳さんはドキュメンタリー風のチャプターで市ヶ谷駐屯地での籠城・割腹自殺に至るまでの姿を演じている。そこには緒方拳さんの顔の皺の動きひとつも無駄にしない鬼気迫る姿がある。三つの物語がそれぞれ彼の人生の伏線であるかのように破壊、死に至るところで、緒方さん演じる三島由紀夫もクライマックスを迎える。理想の高さ、潔癖さ、弱さ、古さ、アロガンツなどすべての感情を余すところなく緒方さんは演じきっている。
この映画で三島由紀夫の”様式美”に対する解釈-カメラ、セット、音楽、衣装-には舌を巻いた。それだけに三島家のご遺族にはつらい映画なのかも知れない。”フィクション映画”として作品をとらえず、彼の”思想”や”趣味”をいいように解釈し、映画が独り歩き始めるかもしれない不安はぬぐい去れない。しかしすぐれた作品とは人間の普遍的なものを表現しているという立場に立ち、このように完成度の高い映画、また、緒方拳さんの渾身の演技を日本で見られないのは何とも残念な気がする。
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