2008年12月3日水曜日

甘苦上海 (63)

京君をモノにすると鼻息荒く始まった連載も早63回目。すっかりモノにされちゃった感のある紅子さん。仕事仲間の”鈍感な”(私じゃなくて紅子さんが言った)日比野さんに、若い恋人のことを自慢したくてしょうがない。ちらっとほのめかして見たものの、冗談としか受け取ってもらえないようだ。さてこの2人の食事風景。

 「殻付きのクマモト牡蠣に、レモンと不思議な香りのするソースをたらして、殻ごとすすった時、京の切れ長な目をおもいだした。わたしを小馬鹿にしたような・・・世界のすべてにタカをくくり、同時に絶望したような鋭くて濁った目が、私の口の中で溶けて、するりと体内に滑り込んだ。
 私は、あ、と声を上げそうになり、あわてて日比野をみた。日比野はいかにも日本のオジサンという姿で、前屈見でフォアグラを救っている。安心した。やはりわたしと京の関係は、まともではない。
 日比野はよく食べる。快楽に忠実なオトコだ。仕事もできるし、誠実でもある。正直に素直に意見をいってくれもする。」

牡蠣を京の目に見立てて飲み込む一文、恐れ入りました。しか~し、生牡蠣食べられなくなりそうだ・・。
日比野さんのこと”鈍感”とか”日本のオジサン”とか言っときながら、よいしょもする紅子。その日比野さんと食事の後散歩に出かける。

「日比野と二人で、新天地を歩いたことなどなかった。家族でもないし、恋人でもないので、会話も歩幅も間が取れない。私は立ち止まる。「・・・、あ、満月だわ、見て?」 ZENという店の上にぼんやりと丸くて白いものが浮かんでいる。日比野に京のことをしゃべってしまいたいのを、ぐっとこらえる。」

その時である、日比野の太短い腕が後ろから私の肩を包み込んだ。突然のことに身動きができない。さっき食べたクマモト牡蠣が胃の辺りからせりあがってくるような感覚を覚える。耳元でフォアグラのにおいがかすかに残る熱い息。「うさぎさんがおモチついてるね。」と囁きが聞こえる。
・・・・な~んて、妄想、妄想、失礼!

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