2011年9月5日月曜日

ツリーオブライフ    The Tree of Life

テレンス・マリック監督。

冒頭のセリフ、(うろ覚えなのだけれど)。
「母は“nature” (野生)と“grace” (神の選民)の2種類の生き方があるという。野生(俗世にならった)の生き方をすれば「他人を支配したい人間ばかり」になり、宇宙と人生は入れ子構造であるから、その人は世界は美しく愛おしいことを感じられなくなるという。」


主人公ジャックの少年時代、庭には芝生、大きな木、少し先には草原や森や川、自然は美しく輝いている。父親(ブラッド・ピット)との確執で心が開かない。それどころか、どんどん内にこもっていく。「僕はどうしてこうなってしまったのか」と少年にはいくら考えても答えは出ない。

成長したジャック(ショーン・ペン)、街中で高層ビルに囲まれた都会で建築の仕事をしている。ガラスが一面に張られた建築物には青空と雲が映りこみ、自然の美しさと呼応している。人工的な美しさを放つ建物の狭間で、の死という不条理に対し問いかけ続ける。

彼の問が始まると炎か何かのように見える映像が現れる。それはどんどん広がって宇宙の星の姿に、そして地球がうまれそこに生命が誕生。唐突に思えるその圧倒的な映像をもってゆっくり理解されていくマクロとミクロの世界。赤ちゃんの誕生(ミクロ)と、宇宙の誕生(マクロ)が実に美しくシンクロされていく。天体の映像はやがて地球が太陽の膨脹に飲み込まれてしまうところまで行き着く。一方人間の心のひだも丁寧に描かれていく。壮大さと繊細さ。これぞ映画の醍醐味。


”Nature”としての父親を演ずるブラット・ピット。子供にも見抜かれてしまう薄っぺらな虚栄心を実に見事に体現。彼のマッチョな「軽さ」が役柄にあっている。一方ほとんど演技らしい演技のなかったオスカー俳優ショーン・ペンは、役柄に対して少々オカンムリだったらしい。しかし、マクロの世界への道案内として適役だったのでは。”Grace"としての母親役を演ずるジェシカ・ジャスティンは、若い頃のミア・ファロー似で儚げな美しさが素晴らしい。


最後にジャックは時空の扉を潜り抜け、過去、現在すべての時間が融合した海岸に立ち、すべての人々が幸せに包まれている姿をみる。私、その包括的なやさしさに、泣いた。あの愛いっぱい満ち足りた時間がいとおしく、泣けた。忘れていた何かを思い出す。


マリック監督は、ハーバード、オックスフォードで哲学を学び、MITやフランスで教鞭をとったという哲学者だ。人前で自分の考えを述べるということがないそうで、この映画も見た人が自由に哲学すればいい。ここ数年見た映画のなかでもイチオシ。是非劇場へ。

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