2011年4月19日火曜日

フランス高級紙ル・モンドは大震災をどう伝えたか

いろいろと考えるポイントが沢山ある記事。またまた長いけど、ちょっと読んでみてほしい。


政府に情報を上げなかった東電の初動に疑問――フランス高級紙ル・モンドは大震災をどう伝えたか、駐在記者に聞く



電力の約8割を原子力発電で賄う「原発大国」のフランス。同国のジャーナリストは東日本大震災や東京電力の福島第一原子力発電所の事故に遭遇し、いったい何を伝えたのか。長年にわたり日本で取材を続ける仏高級紙『ル・モンド』のフィリップ・メスメール記者に聞いた。

――東日本大震災について、どのような記事を書いたのですか。 
 災害の警報システム、東電の原発、NHKの災害報道に関するものなど、さまざまな記事を執筆しました。広島へ足を運び、被爆者にも会いました。震災や原発事故の報に接し、いったい何を感じたのか。あるいは原発に対して抱く不安などについても話し合いました。

 神戸へ出向いて1人の男性にも会いました。彼は1995年の阪神・淡路大震災で被災し、それをきっかけに災害の被災者などを助けるためのNGO(非政府組織)を立ち上げ、今回の震災では宮城へ行っています。
 
 原発の賠償問題、さらには原発事故を受けて、「関東から離れるべきか、とどまるべきか」迷う日本人をテーマにした記事も書きました。



――東京電力の原発の問題については、具体的に何を伝えたのでしょうか。
東電の隠蔽体質を指摘しました。同社はこれまでも情報隠蔽を繰り返してきた。新潟の柏崎刈羽原発のデータ改ざんなどにも触れました。東京電力は世界レベルでも優良企業だとされてきましたが、その一方で、特に原子力に関する情報を隠す傾向があるのも事実です。

――同社が現在、発信している原発関連の情報も疑っていると。 
信用はしていません。なぜならば、過去に情報を隠蔽していたからです。

それに、社長も最近、公の場に姿を現しませんよね。コミュニケーションをしようとしない。彼はいったい何をしているのでしょうか。東電の対応には首を傾げざるをえない点が多々あります。何も問題が起きていないときには「良い会社」なのですが、原子力についてはいつも問題を隠そうとする。それが個人的な印象です。



――日本政府の対応についてはどう見ていますか。
政府は始めのうち、東電のことを信用しすぎたのではないでしょうか。東電は危険の影響度やリスクの大きさをうまく推し測ることができなかった。結局、3日間で3つの原子力発電所が爆発してしまった。それは大変なことです。

菅首相が東電本店に乗り込んで怒りましたね。それが結果として情報の透明性をある程度は高めたと思います。東電は事故の発生当初、自分たちだけですべて解決できると考えたのでしょう。その結果、報告が遅れた。

これに対して菅首相が怒ったのは、誤った行動ではなかったと思います。これが対応のよくない政府であれば、「ひとまず待ちましょう」となります。でも、今回は急を要する、非常に危険な状況でした。

「菅首相が怒ったことで東電が萎縮した」などと批判するのは簡単です。菅首相は先頭に立って災害に対処しなければならない。そして、原発の危機に素早く反応し、成果を挙げることが大事なのです。

――現段階では政府の危機管理能力を評価するのは難しいのでしょうか。
そうですね。やれるだけのことはやっていると思いますが、状況があまりにも複雑ですから。菅首相も原子力のエキスパートではありませんし…。

ただ、首相が東電に対して怒ったのは、自分への報告が遅すぎたからです。東電はすぐに情報を上げなかった。現在は国家の危機。そうしたときに政府は、最初に情報を知っていなくてはならない立場です。国民よりも前に…。
それなのに、テレビを見たら煙が上がっていた。それで原発の爆発がわかり、東電は「爆発しました」と連絡を入れた。これでは首相が怒るのも無理はないでしょう。

首相はすべての国民の健康状態に責任を負っている。政策の責任者なのです。当事者の東電がきちんと仕事をしなかったのが問題なのです。

■日本には再建に必要な頭脳、才能、想像力がある

――NHKの災害報道に関する記事の内容は。 
津波のような災害における情報提供という面で重要な役割を果たしていることに触れました。津波がいつ到達する可能性があるのか、それは視聴者にとって重要なことです。災害時には絶えず、そうした情報を流すことが大事なのです。教育番組などを削って津波情報に関するメッセージを流す。それが公共放送の重要な使命です。

非常時には24時間放送を実施。それも、センセーショナルではなく、ニュートラルなトーンで伝えました。それに比べると、民放はややセンセーショナルに取り上げている面があった。NHKはシンプル。悪くないですね。

気象庁の情報をそのまま視聴者に伝え、官庁の情報もダイレクトに発信する。このため、視聴者は必要な情報を素早く得ることができる。ライフライン関連の情報を得るためには多くの人たちがNHKを見ていますね。有用かつ、重要な役割を果たしています。

――海外では被災された方々の冷静かつ秩序ある行動に対する称賛の声が多いですね。
米国ではニューオーリンズなど、大型ハリケーンのカトリーナに見舞われた地域で盗みや略奪が横行した。日本ではそのような行動をほとんど見ない。私は長く日本に住んでいるので驚きませんが、西洋の人々にとっては驚くべきことなのです。

ですから、私はその質問をしばしば受けます。それに対する答えとしては、「学校における教育の充実」を挙げています。グループ学習などを通じて社会倫理などが培われていく。独りひとりが「公」のモノに対する尊敬の念といったものも抱いています。ちょっと説明するのは難しいのですが、そのように感じています。

――今回の震災で、外国人の間にあった日本の「安全神話」が崩壊してしまったのではないでしょうか。
強い余震が繰り返し起きていますが、多くの建物はしっかりしている。建造物が崩壊したのは主として津波による影響が大きかった。だから、建造物に対する信頼が揺らぐことはありません。被害は甚大で、想像できる範囲を超えていた。安全な国であるというイメージが変わってしまったとは思いません。

もっとも、原発の問題は別です。安全基準に対して疑念があるのは事実です。

――日本は立ち直ることができると思いますか。
はい。むろん、時間は少々かかるでしょう。でも、必ず立ち直ることができるはずです。日本には再建のために必要な頭脳、才能、想像力がある。だから、まったく心配していません。

率直に言えば、唯一の心配は原発の問題です。

復興や経済再建への道のりはおそらく長いものになるでしょう。今、世界にも厳しい状況に直面する企業が数多く存在します。でも、それは日本でしか作ることのできない部品が手に入らないからです。日本の中小企業には独自のノウハウがあります。

たとえば、「iPad2」のディスプレイ用ガラスは日本製ですよね。製造に必要とされる高度なノウハウを持つのは、世界でも日本の企業しかない。現在は苦境に立たされていますが、日本には潜在力があります。「日本経済が崩落した」などとは思っていません。ただ、漁業、農業などで栄えてきた地域の一部に関しては、放射能物質による汚染などの被害が心配です。

――震災や原発事故の発生直後に、在日フランス人の一部が東京や関東エリアから素早く退避しましたが。
フランス大使館は放射性物質による汚染の可能性やヨウ素剤使用の注意点などの情報を在日フランス人に対して的確に伝えたと思います。何も言わなければ手遅れになってしまうこともありえます。

「関東から離れなければリスクがある」といった趣旨の表現を用いていましたが、慎重であり、決して退避を強制したり、あるいは扇動したりするようなものではなかった。極めて理性的でした。
これに対する日本のフランス人社会の反応ですが、原発問題の拡大を恐れて素早く退避した人もいれば、まったく怖がらずに残っている人もいます。

ただ、「逃避」した人のなかには、仏企業の責任者クラスがいました。これが日本を見捨てたかのような印象を与え、多くの問題を引き起こした。(日本社会との)信頼関係を壊してしまいました。その関係を再構築するのは簡単でありません。

恐怖感を抱いているのは日本人も同様。だから、いち早く退避した人の行動は、やや軽率だったかもしれません。ただ、なかには家族のことを心配していた人もいます。フランスで生まれて日本に住んでおり、家族がフランスにいる場合、「原発の問題があるから戻ってこい」と電話をもらった人もいます。

――原発に関してフランス人は日本人よりも敏感なのでしょうか? 
フランス人も日本人も敏感なのは同じです。日本人はあえて表に出さない面がありますが、実際に話しをしてみたら、非常に心配だと言っていました。フランス人はフランスへ戻ることができるが、日本人は戻る場所がないという単純な問題ではないのでしょうか。

ただ、1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の「トラウマ」が今も残るフランス人がいるのは確かです。

それから、日本人はフランス人と比べると、政府(の発信する情報)を信頼しているようにも思えます。フランス人だけでなく外国人全体と比較しても日本人にはそうした傾向があるといえるでしょう。

――今回の原発問題がフランスにエネルギー政策の変更を迫る可能性はありますか。
それが今日、実現するとは思いません。政策変更には強い大衆の「圧力」が必要でしょう。でも、今のところ、反原発の動きはさほど強くありません。

ドイツは現在、脱原発の動きを奨励しています。一方、フランスではそうした機運が盛り上がっていません。福島の原発事故が一石を投じた面はあるでしょう。ある程度は議論が活発化するかもしれませんが、やがては終息すると思います。

フランスでは原子力関連業界の力が非常に強い。ロビー活動にも熱心です。それゆえ、議論の広がりにも限界があります。それに、多くのフランス人は、今回の福島原発の事故が自分の国の問題だとは思っていません。それがたとえ風力であっても、太陽光であっても、原子力だとしても関係ないと…。

フランス政府は政策変更を望んでいません。実際、閣僚からもそうした趣旨の発言が聞かれます。

Philippe Mesmer
仏トゥールーズ大で学士号取得(歴史学)。その後、パリのジャーナリズム高等学院に学び、2002年に来日。05年からル・モンド記者。※撮影:吉野純治

(聞き手:松崎泰弘 =東洋経済オンライン)


2 件のコメント:

  1. 14日の日記と共にぜひゆっくり読ませていただきます。

    返信削除
  2. 海外メディアの過剰反応もここに来てややクールダウン。情報にあおられないように、賢くならなくてはいけないとつくづく思いました。

    返信削除