美しい自然の中にたたずむ寄宿学校ヘールシャム。そこで学ぶ子ども達は一歩たりとも学校の敷地外へ出ることを許されていない。洗脳に近い教師からの言葉を信じる子ども達、ギャラリーに飾る目的に子ども達の創作作品を取りに来る”マダム”と呼ばれる婦人、壊れたおもちゃの配給、毎日の健康診断など、牧歌的な中にたたずむ学校とは違和感のある日常がそこにはあった。キャシー(キャリー・マリガン)、ルース(キーラ・ナイトレイ)は幼い頃から仲良し、利発で思慮深いキャシーは個性的なため友達のいないトミー(アンドリュー・ガーフィールド)に淡い恋心を抱いていた。そして彼らは自分に課せられた”使命”を知り、それを全うするため18歳からは学校を離れコテージに移り、徐々に社会の空気に触れ始める。ルースとトミーは恋人同士になり、キャシーはトミーへの気持ちを抑えながら"介護人”として仕事に励むようになる。やがて過酷な”使命”の通達が3人にも届けられる。
普通の若者であれば、3人の恋は「青春の苦い思い」で済むかもしれない。しかし本来どこに向かうか分からない青春ではなく、彼らの行き着くところは定められてしまっている。助かる側の喜びもあるはずだけど、それを完全に無視して、助ける側の苦悩のみを描いている。私は幼児が教えられないのに思いやりをもっているのを見て、本来人は「善」として生まれてくると思っているのだけれど、この映画をみると人間もしくは社会に非常なまでの冷淡さや無関心が厳然とあることを否定できない。「ソイレント・グリーン」、「侍女の物語」、「ダカタ」、「ブレードランナー」などちょっと思い出しただけでも、近未来のマイノリティーがマジョリティーのエゴの犠牲になっている映画が幾つもある。
いずれは人生は”完結”するのであればどのように生きるべきか、なすすべもなく運命を受け入れる若者達に一種の驚きを感じる。その素直な姿勢は、生物学的な問題なのか教育の問題なのか、もしくは達観しているのか。若者が犠牲になる社会だけにはなって欲しくない。
原作はカズオ・イシグロの同名小説。
0 件のコメント:
コメントを投稿