そして私生活ではクローゼット・ホモセクシュアルであり、マザコン。彼は「捜索オタク」で、もし、今の時代に生まれていたらPCを駆使したに違いない。NCISのアビーなんて、きっと気にいられるだろう。ま、彼の場合真実が厄介者になる時もあり、一緒に働くのは大変そうだ。そんな情報を収集し、若い頃は映画やコミックを使って自分を英雄に祭り上げ、FBIを認知させるプロパガンダを行った。老いては事実を伏せて、自分の武勇伝を書き残そうとする。彼の作り上げた世界は、私からは少々遠い存在のアメリカの近代の側面を知るのに大変勉強になるし、主義や信念の危うさについても深く考えさせられる。
フーバーやその時代については勉強不足だから言及は避けるとして、「映画」としての俳優陣について。フーバーの腹心クライド・トルソン役のアーミー・ハマーは、「ソーシャルネットワーク」で金持ちの双子役を一人二役でやった人。クライドがフーバーの面接に来た時のシーンの彼は素晴らしい。恋愛関係として完全に優位に立つその堂々とした振る舞い、それでいながらフーバーを愛おしく見つめる目。高ぶる若者の気持ち、くらい部屋と窓からの光がアーミー・ハマーの意味深な美しい瞳をしっかり捉える。
このシーンでオタオタするフーバーをディカプリオがなんともうまく表現している。クライブの視線を動じながら受け取る、その落ち着きのなさや空威張りが素晴らしい。巷では、晩年を演じた時のメイクが陳腐とか言われているけれど、なんのなんの、メイクなどは全然(と言ったらウソになるけれど)気にならず、私には老人を演ずるディカプリオの良さが意外だったほどだ。違和感あったのは、声が若々し過ぎたくらいか。いつもの彼の”アクトしてます!”オーラが、血の気の多いフーバーのキャラクターとうまくハマったのか、イーストウッド監督のシンプルな采配か。今回アカデミー賞にノミネートされなかったのは少々残念だ。
フーバーの母親役のジュディ・ディンチは圧倒的な存在感、秘書ヘレン役のナオミ・ワッツもいい女優。ジェフリー・ドノヴァンが、「チェンジリング」に続きロバート・F・ケネディ役で登場。でもフーバーには「バーン・ノーティス」は出せず。