ペンシルベニア州にある操車場で、最新鋭のディーゼル機関車777号の牽引による39両編成の貨物列車が、運転士の小さな人為的ミスが重なり無人のまま暴走を始めた。このボケっとした運転士は「マイネーム・イズ・アール」のランディことイーサン・サプリー。アールはどんなにめちゃくちゃやっても適当に許してくれるけど、ディンゼル・ワシントンは無理。
貨物には19万リットルものの発火燃料に加え、発火性の強い有毒化学物質が大量に積載されてお り、このまま暴走を続ければ1時間40分後にはスタントン郊外の急カーブで脱線転覆し、大惨事になることは避けられない。そのころ鉄道会社から強制解雇を通告された旧式機関車のベテラン機関士フランク(ディンゼル・ワシントン)と新米車掌ウィル(クリス・パイン)が、1206号で同じ路線を走行していた。年齢も立場も違う2人の折り合いは悪く、お互いすることがカンに触る。それぞれが私生活に問題を抱えていることも、その場に少なからず影響を与えている。その2人が1206号と経験と体力を駆使して、777号の暴走を止めるべく 奮闘を始める。
ぜーんぜん期待していなかっただけに、いい意味裏切られた。監督はトニー・スコット。冒頭、その昔、(映画はともかく)「トップガン」のオープニングを見たときのことを思い出した。カメラの映すカットがいい、奇麗なのだ。画面から目が離せない。物語そのものは”機関車を止める”だけ。登場人物もほとんどデフォルメされたような性格描写、と言うか、社会的役割を持ったキャラクター。至極単純な構成なのだ。その中をただ機関車が走る。走っている機関車は別に怖くもなんともないけれど、この先起ころうという事故の予測が、機関車を生き物のように思わせるところが面白い。物語の進行はときどきはさまれるテレビの中継が担い、これがまた臨場感を盛り上げる。
アメリカ・ヒーローものではあるけれど、ワイヤーアクロバットではなく、普通の人の活躍劇なのがいい。ディンゼル・ワシントンが何しろカッコイイ。「
スタートレック」のクリス・パインも花まる。小さな幸福を求める労働者達がのぞかせるきらりと光る職人魂が痛快で、深読みせずに思うつぼにはまり見るのも悪くない。子どもたちに鉄道の話をするために、偶然オペレーション室で事件に遭遇した鉄道局のお役人さんの鉄道オタクぶりが面白かったなぁ。
しかし主役はなんといっても777号と1206号。この物語のもとになった実際の無人機関車は、約80キロで走行していたが、本作では倍の160キロ。ギギギ~、ガガガ~と走る姿は迫力満点。無人で走る機関車と言えばトーマス。もしこの2台がトーマスに出てくる機関車みたいに口がきけたら、なんて言っただろう。
いづれにしても安全と思われている鉄道も、毎日の地道な作業のおかげで成り立っているのだということがよくわかる。300キロで走る新幹線の技術と安全性にいまさらながらに感心する。