2010年2月1日月曜日

歩いても歩いても



是枝裕和監督、2008年

横山良多(阿部寛)は妻のゆかり(夏川結衣)とその連れ子のあつしを連れて、15年前に溺れた子供を助けて他界した兄の命日に実家に帰省した。三浦の海岸の静かな風景の中で、引退した町医者の父(原田芳雄)、母(樹木希林)、妹夫婦とのある夏のごく普通の一日のものがたり。

良多は失業中、しかもなくなった兄にコンプレックスをもち両親としっくりこない。その両親もお互いの会話はどことなくすれ違っていてとげとげしい。姑からの鋭い一刺しをツンツンと不意打ちでくらい脱力と忍耐の嫁・ゆかり(良多の妻)。あっけらかんとして母親に話しを合わせながらも、争いを避けるべく気を使う長女(YOU)。そんな大人を愛すべき人々として見るあつし。

良多の母は、妻として母として我慢して我慢して生きてきたのだろう。閉じてしまった天岩戸は簡単には開かない。なぜそんなことをするのか、こんなことを言うのか、彼女の痛みに鈍感な家族はうざったく感じる。けれど、母にはおそらくそういう風にしてしか、昔からの積もり積もった痛みを和らげる方法がないのだ。樹木希林さんは意地悪をユーモアというオブラートで包み、息子を失ったつらさを悲壮感なく深く深く感じさせる。

約束を守る、夢を実現する、できたらそれに越したことはないけれど、約束をした人、夢を持っていた自分、それ自体が大切な思い出。思った通りに時は過ぎて行かないけれど、後悔もさみしさも感じさせない、ただ日々を繰り返す。絶妙なタイミングと会話で胸の奥が理由なくチクリとする、そんな 何気ない日常を描いた詩のような映画である。

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