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劇場に張ってあったポスター |
池袋の芸術劇場で野田マップ第16回公演「南へ」を観てきた。
無事山の観測所に南のりへい(妻夫木聡)が研究員としてあらわれる。そこには星野仙一が大好きな所長の里長(渡辺いっけい)、自殺未遂の女あまね(蒼井優)、2人の署員、旅館の三つ子姉妹。あまねは「自分の分身」に監視されるうそつき。そのうそつき少女あまねに南は「無事山の噴火を予知するものは狼少年だ」とうそつき呼ばわりされる。あまねの作り話を軸に、舞台は現代と過去(宝永時代)の無事山噴火が交錯する。
神の不在を説いた野田秀樹の舞台はもう一歩踏み込んで、天皇制までに達している。 人間の神格化が引き起こす社会現象に自分の意に沿った結末でなければ真剣に話を聞かないメディアが介在。自分のIDさえ不確かで、はっきりものが言えない(考えられない)国民が飲み込まれていく。
・・・というような内容と解釈したけれど、やっぱこれ以上私には説明が難しいので、ここから読売新聞2月22日より引用。
(里長の役を)野田は、「戦後民主主義社会を、テレビでプロ野球観戦をしながら生きてきた中間管理職的な人間」と表現する。そんな「典型的日本人」への痛烈な批判が、この作品を貫く。
「キリスト教、イスラム教には、神という絶対の存在がいる。日本では空白のポスト。だからオウムが現れる」と野田。神の不在は戦後に始まる、と考える。「日本人は戦争に負けて何も語らなかった。ドイツ人はナチスの罪を語った。その違いは何か。教会で
懺悔できる彼らと、神のいない我々との差なのか」と、厳しく問いかける。だが、作品は結論を提示しない。
言われてみればそういうことだったのかと思う。ああ、難解。
「
キル」の時は必死に見えていた妻夫木君はかなり成長。あのときは体調が悪かったのかな。何より”華”を感じた、がんばれ。道理(みちすじ)役のチョウ・ソンハ君は劇場の隅々まで通る声で大活躍。高田聖子さんは貫禄の面白さ。何よりも驚いたのは蒼井優さんで、しなやかな体と力いっぱいのセリフ回しで将来有望。妃のお毒見役藤木孝さんは今まで見たことないくらいすごかった。デラックス松子など足元にも及ばない。黒田育世さんの群衆の振付は、二つの時代が切り替わる場面を幻想的に作り上げている。野田さんは冒頭から毎度のことながら、誰よりもハイパワーが炸裂。ああやってみんなを引っ張り上げるのだ。