2010年10月18日月曜日

ブロンド少女は過激に美しく

マノエル・デ・オリヴェイラ監督100歳のときの作品。

冒頭から100歳の時間の流れはすごい。カメラは電車の中の20人ほどの乗客を正面から律儀に映している。車掌さんが検札をしている。一人ひとり丁寧にゆっくりと切符を見て、ぱちんとはさみを入れ、「ボンボヤージ」と挨拶をしている。64分の作品なのに映っている乗客全ての検札風景が続く。
その後も童話の本のページをめくるようにポツポツと物語が進む。

昔々あるところに、働き者で正直な若者がおりました。
ある日、エキゾチックな扇を持った美しい娘に恋をしました。
彼の雇い主である叔父さんに、結婚の許しを求めました。
しかし、叔父さんは結婚するならクビだと、若者を追い出してしまいます。
理由は良く分かりません。
仕事がなくては結婚を申し込むことは出来ません。
若者は仕事を探しましたが、誰も雇ってくれません。
やっと見つけた仕事は遠い土地での過酷な労働、
それでも娘のために故郷を後にします。

人々の会話も街の風景も何10年も前に時が止まったよう。単純で最小限の大真面目な会話は不自然だったけれど、時に唐突でそれにユーモアを感じる。後で調べてみたら、原作となったポルトガルの文豪エサ・デ・ケイロス1873年の小説の言葉を、ひとつも変えずに映画化したそうだ。そのセリフゆえか人間が植物のようだ。

どちらかというとリスボンの街や建物の方が表情豊か。何気ない風景を絵画のように切り取り、光や風で静物がみずみずしく変化する。また静止したアンシンメトリーな映像に、不思議な安心感が漂う。100歳になるとこんなに美しいミニマルな世界が見えるようになるのか。いや、見えるようになるような生き方が必要なのだろう。

若者のすったもんだの恋愛の一部始終が、あっけなくパタンと幕を落とし、最後は走り行く電車をカメラは捕らえる。画面の電車を見送るうちに、冒頭の助長された車掌の検札シーンを思い出した。主人公の心情を映す映像の完成されたリズムにマイスターの仕事を見た。

しかし、あの羽毛のついたウチワ、もうちっと良いものなかったか。これも原作のままなのかしら。

今年102歳になる監督はまだ創作を続けている。

4 件のコメント:

  1. 御年102歳それだけでも素晴らしいことですね!
    とても惹かれる映画です。

    以前『メフィストの誘い』というのを観たことがあります。マルコヴィッチとドヌーブ共演の。
    この作品はよくわからなかったです。
    感性に委ねられる映画なのでしょうか。

    返信削除
  2. エリリンさん、こんにちは。

    同感です。私は「アブラハム渓谷」と「階段通りの人々」を見たのですが、部分的にひらりと何かが降りてくることがあっても、全体を通しては??だったんです。

    でもこの作品はストーリーが明解で、単純なセリフや苦悩(ウディ・アレンのような)がなんだかおかしく笑えました。・・・監督は笑いを取ろうとしたのではないのかもしれないけれど。映像の余韻が楽しめる美しい映画です。

    返信削除
  3. [映像の余韻が楽しめる美しい映画]
    う〜~ん読んでいるだけでため息が出そう...
    ますます楽しみな映画です。

    メモしました♪
    ありがとうございます。

    返信削除
  4. ”スローライフ”があるならば”スローフィルム”とでもいいましょうか。デジタルの世界になってしまった今、最初にアナログで美しさを知ることができた私たちはシアワセだと思います。

    返信削除