2010年9月21日火曜日

終着駅 トルストイ最後の旅

トルストイ(クリストファー・プラマー)はヤースナヤ・ポリャーニャという場所でトルストイ主義者たちとコミュニティを作り暮らしていた。トルストイ主義者とはキリスト教的な人間愛や道徳観で -肉欲やら殺生を極端に否定するわけだけど- トルストイを信望している人たちのこと。トルストイの高弟チェルトコフ(ポール・ジアマッティ)は、政府に軟禁されていてトルストイと会えない。そこでトルストイに心酔している若者、ワレンチン(ジェームズ・マカヴォイ)をトルストイの個人秘書として派遣し、彼にトルストイの身の回りの出来事一切を書きとめるように言い渡す。

チェルトコフたちはトルストイの妻ソフィア(ヘレン・ミレン)が自分たちの思想の実現を阻んでいると考えているのだ。チェルトコフたちはトルストイ主義に基づいて、トルストイの持つ著作権や遺産をロシア国民に委譲させようとしているのである。それに妻は猛反対。帝政ロシア時代の伯爵夫人という裕福な環境にあって、トルストイの著作権による収入は家族のもの!と主張する彼女は悪妻と思われている。妻とのいさかいで堪忍袋の緒が切れたトルストイは82才にして家出、鉄道で旅をするうちに衰弱し、文字通り「終着駅」に辿りつく。

トルストイにはイコンとしてのトルストイと生身のトルストイが混在しているのだけれど、残念ながら体はひとつ。私にはチェルトコフとソフィーが、嫉妬丸出しで単に1人の男を取り合っているだけのように見えた。トルストイ自身は煩悩を持つ自分がだんだん神格化されていくのを、煩わしく滑稽に思いながらも、崇高でありたいと思う。このあたりの行ったり来たりを体現する、クリストファー・プラマーのうまいこと!

ソフィー以外にもう一人興味深い女性が登場する。ワレンチンの恋人マーシャ。彼女はコミュニティで生活を始めるが、自分の中での矛盾を見抜き、すっぱりと生身の自由な人間として生きようとする。その昔ワレンチンとマーシャのようなトルストイとソフィーがあったはずなのだ。ソフィー(もしかしたらヘレン・ミレン演ずるところの)に心から同情する私には、ワレンチンの心の逡巡がせめてもの救いになった。

それにしても妻から逃げるのにあんなに遠くまで行く必要があるのか?大思想家の心を読むのはむずかしい・・・。

2 件のコメント:

  1. この映画観てみたいです!

    「セラフィーヌの庭」という作品も観てみたい。
    最近フランソワーズ・クロアレクの書いた「セラフィーヌ」という伝記ものを読んだのですが
    あまり良くまとまっていなくて読みづらかったので
    す。あまり本人の事で分かっている事が少ないからだとも思うのですが....
    映画の方がよさそうな気がします。

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  2. エリリンさん、こんにちは。

    夏目漱石もモーツアルトも恐妻家として知られていますが、実際はどうだったんでしょうか。夫が公に重要になればなるほど、世間は彼を束縛する。はっきりモノを言う妻であれば、私生活を邪魔されたくないと声高に言うでしょう。昔はそんな妻の態度が認められるはずもなく。ソフィアの言っている事にちっとも違和感を感じなかった私は、悪妻リストに載ること間違いなしです!

    ヘレン・ミレンはいつも素晴らしい。歌って踊れるトラップ大佐はすっかり好々爺です・・・。

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